奈良県

下市(下市町下市)

下市は吉野山地と大和平野を結ぶ交通の要衝として栄え、平安時代からの伝統を引き継いだ市場町として発展した。江戸時代には商業手形「下市札」も発行されていたそうである。「割り箸」をはじめ吉野杉を素材とする地場産業も盛んで、吉野山を源とする秋野川に沿って落ち着いた町並みが続いている。

下市・懸崖造りA(下市町下市)10.08.15       36×51cm
6年ぶりに下市へ行った。この町の家は中央を流れる秋野川にはみ出して建てられているものが多い。懸崖造り(懸造り)の一種ともいえると思うが、絵になる風景である。駐車できる場所を探していると、以前描いたことのあるポイントに行き当たった。問屋橋という橋の袂のポンプ小屋の日陰を選んで、この日の1枚目を描いた。そのうちに頼りの日影がだんだん小さくなった。

下市御坊あたり(奈良県下市町下市)10.08.15     F6      10.160
問屋橋の袂で川の風景を描いたあと、ふと振り返ると、坂になった路地の向こうに「願行寺」の門がみえる。お盆とあってお参りの姿も目立つ。幸い日影もあるし、暑い中を移動するのも面倒。お盆なのだからお寺を描くのもよかろうと2枚目を描くことにした。下市の町は願行寺とともに発展してきた歴史があり、「下市御坊」とも呼ばれている。

下市・懸崖造りB(下市町下市)10.08.15       36×51cm
懸崖造り風の景色をもう1枚描きたいと思い日影を探した。町の中心部にある農協ビルの裏側に川へ下りる坂道があり、ビルのお陰で日影になっている。嬉しくなって椅子を置いた。スケッチしていると、町の人がこの坂道に精霊流しにやってこられた。聞けば「午後3時までに流すことになっている」という。思わず時計を見ると、2時50分だった。

下市・弥助(奈良県下市町下市)10.08.15       F6
下市の町中に「弥助」という創業800年余という驚くほど老舗の料理屋がある。歌舞伎「義経千本桜」の三段目「すし屋の段」のモデルになったという店である。ベンガラ色の壁でいかにも存在感のある建物をスケッチしていると、若主人らしき人がやってきて「終わったら冷たいお茶でもどうぞ」と親切に声をかけてくれた。

下市・懸崖造り@(下市町下市)04・04・30 36×51cm
3月に描いた私の絵(下の@)を見て、ひまつぶしさんがこの町にスケッチに行った。その絵を見て今度は私がまた出かけた。土地が狭い下市では多くの建物が秋野川に張り出して建てられている。改めて町を歩くと同じような風景でまだまだ魅力的な場所がたくさんあった。下の絵で橋の向こうに見えるのがこの家並み。

下市B(下市町下市)04・04・30 F8
3月に描き残した思いがしていた問屋橋から見える風景を描いた。下のAの絵を描いた場所で後ろを振り返っただけである。下校時の小学生が次々に通る。制服が少し大きめの子供がそばに寄ってきたので、「1年生?」と聞くと、こっくりとうなづいた。

下市@(下市町下市)04・03・31 36×51cm
町の中心部「札の辻」バス停近くで秋野川の川べりまで降りて、願行寺(がんぎょうじ)が見える風景をスケッチした。春本番とあって瀬音が気持ちよく、川面に反射する光がまぶしかった。少し上流で親子が釣りを始めた。

下市A(下市町下市)04・03・31 F8
町を南北に貫く国道309号線沿いにも伝統的な建物があったが、一筋裏道に入ると魅力的な町並みもあった。正面にビルが見えたが無視した。私としては珍しく「早描き」をした。

おみやげ

下市は「割り箸発祥の地」だそうで、生産量も多い。庭先で天日干しする風景も目に付く。絵を覗きにきた人に「みやげに割り箸を買えるところはありませんか」と聞くと「我が家へおいで」という。お宅は坂の上でずいぶん遠かったが、赤杉の高級品を割安で譲ってくれた。「これを燗酒に浸すと樽酒に変身しますよ」という秘密も明かしてくれた。




天川村洞川温泉へ
「近畿の旅3」(奈良、滋賀)の目次へ